1.乳脂肪凝集プロセスについて、「ホモ牛乳」

岩手の畜産研究家、小岩井常三郎は偶然乳を出す雄牛を発見した。どうやら、雄牛のみを密集した牛舎で飼うことにより何らかの理由でホルモンバランスの狂いが生じ雄牛も乳を生産するようになるらしい。そのご、このホルモンバランスの調整により乳を出すようにした雄牛の牛乳を「ホモ牛乳」と称するようになった。「ホモ牛乳」は脂肪粒が細かく日持ちするために急速に普及していった。

というのは、有名なウソでホモ牛乳のホモとは「ホモジナイズド」すなわち、含まれる脂肪分が均質化された牛乳のことである。この均質化処理は現代の生産工程では、細かく均質な穴が開いたフィルター層に50度程度に暖めた牛乳を加圧通過させることにより作られる。ホモ牛乳では「クリームライン(分離脂肪層)」が出来にくい。さて、それではなぜ均質化された牛乳ではクリームラインが出来にくいのだろうか。三つの原因が考えられるのだ。

a.相対速度の減少

b.移動抵抗の増大

c.衝突抵抗

だ。

a.均質化による相対速度の減少

さて、いきなり閑話休題。むかしボールセミコンという会社の評価をしたときに持ち込んできた担当者が「なんでも球面は表面積が最大なんですって?だから球面に回路作るとシリコンが少なくて済むらしいんですよ」と言っていたのをほほえましく思い出す。この担当者は、千枚漬けを食ったことがあるのだろうか。例えばボーリングの球の表面に回路形成する様を想像してみたのだろうか。いや、それはそれでデススターのようでかっこいいけどね。やはり日本は知識教育の前にちょっと想像する習慣を教えるべきだ。

実際には逆だ。球面は同じ体積ならば表面積が最小になる形状だ。水中の油滴が丸くなるのも水と接する表面積を最小化しようとするためだ。たぶんボールセミコンの技術者が言ったのは、大きな球と小さな球を比べた場合、質量あたりの表面積は小さくなるほど大きい。よって、小さな球の表面に回路形成を行えば球面であってもシリコンの量を節約できるということなのだろう。もしそうでなければ会社はヤバイ。

ボールセミコンのビジネスがうまく行くかどうかはわからないが、この基本的な性質は、「均質化された乳脂肪では衝突頻度が下がる」ことを説明する。

牛乳が入った瓶を振ってみる。すると、内部の牛乳には擬似的重力加速度と乱流が発生する。そして、擬似的重力加速度は、質量(または浮力としての排除質量)に比例した力を粒子に及ぼす。ところで、質量は大きさ r の三乗に比例する。一方、液中を移動する粒子には流体抵抗が発生するがこれは概ね一定速度では表面積に比例する。

つまり、小さな粒子ほど遅く、大きな粒子は早く移動するというわけだ。この粒子の大きさによる不揃いな速度は衝突をもたらすのだが、粒子の大きさが異なるほど相対速度が高いため、粒子がそろっているほど衝突は起きにくいのだ。

b.移動抵抗の増大

さて、次に同じく表面積の効果により、より小さな粒で構成されている油滴は、溶液内部での相対速度自身を高めることが出来ない。液全体は激しく流動しても、粒子自身は流体のながれと同じ様な速度で移動するだけなのだ。このため、粒子同士の相対位置は変わりにくく、また、衝突が発生した場合も粒子の持つ固有運動エネルギーは少ない。

c.衝突抵抗

最後に、牛乳のなかの油滴が固体であった場合には、衝突に際してダンパー効果が発生する。この効果が、実はバター形成の鍵ともなる。

つまり、固形物の衝突に際しては液体に比べて変形に費やされるエネルギーが多く、また、衝突後の結合強度は衝突面の面積に比例する。つまり十分な結合強度を示すにはある程度の変形が不可欠なのだ。

このため十分な相対速度を得られない場合は急激に結合確率が下がってしまう。かるくコツンとぶつかっても変形せずにすぐ離れてしまうのだ。

以上の三点がホモ牛乳ではバターが出来ない理由だ。それでは、バターが出来るときに脂肪粒子が固体であることの意味とはなんだろう。(まだまだつづきます)

2.ドレッシングは振って混ぜる、バターは振って固める

さて、ここからが本番だ。牛乳内部に存在する油滴が液体である場合、この油は水との接触表面積を最小にしようとする。これは、極性分子である水分子同士のファンデルワールス力の方が大きいためだ。逆に言えば、水は油とふれている面積を最小にしようとするのだ。もちろん体積あたりの表面積は大きいほど少ないため、ドレッシングはほっておくと分離してしまう。しかし、ドレッシングはかける前に振るだろう。当たり前だ。その方がおいしいからだって、そうじゃなくて、振ると混ざるのはなぜか?理由は二つある。

一つは、系全体に運動エネルギーが与えられた場合、体積あたりの表面積が大きな小さな粒子がポテンシャルエネルギーという形で存在を許されるからだ。また油滴が液体である場合変形に伴うエネルギー損失は当然少ない。

そして二つ目。一端形成された細粒子が衝突した場合、液体であれば一定以上の相対速度を持つと、結合せずにまた別れてしまうのだ。

これは、液体では変形に伴うダンパー効果が少なく衝突の前に持っていた運動エネルギーを変形吸収できないため再び分離してしまうためである。だからドレッシングは振ると混ざるが放置しておくと分離するのだ。

これに対して変形による吸収エネルギーが多い固体の場合、一定の帯域の運動エネルギーを加えることによりかえって粒子の大きさは成長する。

後で調べたらバターを作る場合は10度程度に冷やして攪拌するらしい。不揃いな粒子を攪拌することにより衝突確率を高め、適度や柔らかさで固形であるために、衝突ダンパー効果が働いてより大きな粒子を形成する。

こんな発見があるのであるからたまにはトーストも塗ってみるものだ。