巣立ちの日

むかし、山奥の、そのまた奥に究極の武術を極める師弟がいた。

弟子よ! げんきでしか? 別れの時を迎えて、マジになり切れぬシャイなわしじゃが、旅立つおまえに渡しておくものがある。

まずは、老師著、「世界の武術全三十六巻」じゃ。今なら、拡張版老師カードとバインダー付きじゃぞ。

そしてこれ、幸福のペンダント。究極奥義封入済みじゃ。大丈夫じゃ。72回払いで、月々三万円じゃでな。

それではアディオス。おっと、ペンダントの究極奥義じゃが、修行が完成していよいよ困ったときにしか開くでないぞ。

ほんじゃさいなら。歯磨けよっ。」

弟子は、「世界の武術全三十六巻」を背負いながらも、楽しいことがあったり、苦しいことがあったり、サミシイ休日を過ごし、うっとおしい集まりに出たりしながら、それでもゴミは分別して暮らしていました。

さて、修行もいよいよ極まって、強いやつのなかでも、極めてすごく、チョー強いやつと戦うことになり、繰り出す技もつきて、いよいよダメかと思ったそのとき。薄れゆく意識の中で、あの「究極の奥義」のことを思い出したのです。

「おっしょーさま!!!!」

ようやく渾身の力を振り絞って、つかみ取ったペンダントを開くとそこには

「ヒトに頼るな」

と書いてあるのみでした。

「なんですとー!」

弟子はすでにもろにあれでしたが、最後に人に頼ろうとしていた自分に気付き、そんな自分を恥じ、ようやくなんとか自らの力で敵を倒すことが出来たのです。

その後弟子は、百科事典のセールスマンからは足を洗ったとのことです。