蜘蛛の糸

あるときオシャカ様が赤坂の料亭の帰り道に愛用のベンツからふと外を眺めると、道路脇のコンビニではカンダダが夕食の菓子パンを買い込んでいるところでした。

「なんや、カンダダくんや。しんきくさいことしよるな。また残業かい。」

くどいようですがオシャカ様は、ヒトのこころに直接語りかけるため、その声は、聞く人のイメージに従って聞こえるのです。独り言の場合もです。

「そや、やつは、まえのプロジェクトでぎょうさんバグをなおしよったな。」

あわれに思ったお釈迦様は、翌日カンダダを呼んでこう言いました。

「もうかりまっか。」

カンダダは、赤いまなこを見開いて言いました。

「オシャカさま、用事はなんですか?」

「ガンダダくん、君もせっかちやな。ええもん食うとるんか。」

そういえば、家で飯を食ったのはいつだったのか。ガンダダは宙を見つめました。

「まあ、ガンダダくんも、ええ年や。どや、その腕をみこんで、技術部門を別会社にしようと思うんや。WebホスティングでASPちゅーのはどや」

「ありがたいお話です。ただ、会社といっても、資金もいるのではないですか。」

「そこはしんぱいイラン。出資はしたるで。でも自分も株持ちたいやろ。そっちも貸したる。まっ、少しはリスクもとらんとな。これで君もオーナー社長や。どや。時代はわーるどわいどワイワイっちゅうわけや」

ガンダダは、コイツに社長が出来るなら確かに自分にも出来るかもしれないと思いました。

「わかりました。是非やらせてください。」

「よっしゃっ。がんばるんやでっ」

その後、ガンダダは、前にもまして働き、東証マザーズへの公開を果たしました。カンダダの会社の株は注目IT銘柄として、ブラウザーも使えぬおやじが争うように値をつり上げました。そして、ようやく苦労が実ったカンダダは、借金返済のため、少し株を売ることにしました。

すると、どうでしょう。同じように、若いエンジニアもせめて都心の狭いマンションを買うためにと株を売ろうとしていました。実は、オシャカ様は、擬似ストックオプションと称して、自分の株を社員に買わせていたのです。

社長が株を売ってるというはなしは、瞬く間に伝わり、相場は、たちまち崩れていきました。なお悪いことに、その後社員に株を売るなと言ったことが株価操作と言われてさらに値下がりに拍車をかけたのです。

これをみていたオシャカ様はポツリといいました。

「うるときのこともかんがえとかんとなぁ。そりゃいちどにはむりやで。ゼニは人を選ぶんやなぁ。」

オシャカ様は、「擬似ストックオプション」で、社員に広く薄く株を売って資金を回収した上で、カラ売りと底値買いで、利潤と経営権を得ていたのです。

その後、カンダダは、なんとか借金分は返したものの、元通りさらりーまんとして菓子パン食いながら残業する生活に戻ったとのことです。