さっぱりする日本の石鹸

オフィスでの雑談で、アメリカのスタッフが日本に出張してきたときに「日本はいい。風呂にはいるとさっぱりする」と言ったらしい。アメリカでは石鹸で洗ったときにぬるぬるがなかなかとれないのだけれど、日本ではすぐにとれるらしいのだ。すかさず「日本は軟水だからでしょうね」と誰かが言った。私はそれは違うと思ったが、よく考えれば、そうだともいえる。その場でちょっと感心したのだが、込み入った話なので言及することはやめておいた。

石鹸のさっぱり感

実は、石鹸で洗った後のキュとする洗い上がり感。あるいは、ぬめりが早く洗い流される感じは、「石鹸カス」のためだ。ご存じのように、石鹸の主成分は脂肪酸ナトリウム、またはカリウムであり、水中ではイオン化傾向の高いナトリウムやカリウムが分離し、脂肪酸イオンとして存在している。イオン化した部分が電離分子である水と高い親和性を示し、脂肪長鎖の方が油との親和性を示すことにより界面活性剤として機能するのだ。

しかし、水道水の中には、カルシウムやマグネシウムなどのよりイオン化傾向の低い金属イオンも存在している。そうしたイオンと脂肪酸が結びつくと水に溶けにくい安定した分子になってしまう。それが石鹸カスだ。石鹸カスの状態になってしまうと界面活性が失われるため洗浄にとっては障害となる。しかし、これが逆に石鹸の泡切れ感を演出している。石鹸カスが発生しにくい一部の合成洗剤を使うと、すすぎを繰り返してもなかなかぬるぬる感がとれない。これは、洗剤の界面活性力が体表面への親和性を発揮するためだ。しかし、適度に石鹸カスを発生させることにより、イオン化した脂肪酸はカスとして固着し、キュッとした洗い流し感が発生する。このため石鹸メーカーはある程度のカスが発生するように成分を調節しているのだ。

さっぱりしない?アメリカの石鹸

さて、それではアメリカからきたスタッフが、さっぱり感のために日本の軟水をアメリカに持ち帰ってシャワーを浴びたらさっぱりするだろうか。たぶんさっぱりすることはない。むしろ、よりヌルヌルした感じが残るだろう。なぜならば、日本の軟水にはカルシウム、マグネシウムなどの成分が少ないからだ。さっぱり感を楽しむためには「日本の石鹸」を使う必要がある。しかしそれでは、そのアメリカ人も喜ぶさっぱりした使用感の石鹸をなぜアメリカで発売しないのだろうか。

賢明な方ならおわかりだろうが、水の硬度がより高い地域で、日本向けのさっぱり感に調整された石鹸を使うと、石鹸カスが出まくっちゃうのだ。もともと、石鹸カスそのものは洗浄を阻害する。このため、水の硬度が高い地域を主要マーケットとした石鹸や洗剤は、より石鹸カスが発生しにくいように調整してあるはずだ。このため、アメリカではヌルヌルがなかなかとれないのに日本ではすぐにとれるといった体感が得られるのだろう。純粋な石鹸としての機能はアメリカで使っているものの方が高いはずだ。

とまあ、このようにくどく考えると、本人がそこまで思ったのかは知る由もないけれど「日本は軟水だからでしょうね」という言葉は深い。日本のさっぱりする石鹸は硬度の低い日本の水を前提とした商品というわけだ。とはいうものの、それもたまたま、スタッフが安い石鹸を使ったのかもしれず、あるいは逆に超高級ホテルでのさっぱりする体験だったのかもしれない。深い真実のそこにはより深い事実が隠れているかもしれないのだ。

いやぁ、くどくどと考えるとキリがありませんなぁ。