シノレス

六本木ヒルズにて子供が回転ドアに挟まれて死亡する事故があった。最近、この手の報道を聞くと自然に涙ぐんでしまう。

この件、親の監督とか、森ビルの管理とか、業者の対応など言われているが、根本的には設計段階でのミス、または、設計者の割り切りがメンテナンス部門に伝わっていなかったことが原因と思われる。

回転扉に対するニーズ

回転扉は、ビルの内部と外部の空気の流れを遮断する能力によって、高層化するビルには果たす役割は大きい。空調が施されたビルとは、外気と異なった気温の巨大な空気の固まりがそこに存在することに等しい。よって、高層化すればそれだけ、上昇気流を生み出す圧力差も大きく発生することになる。

このとき、下方の入り口部分において外気の流入が可能になっていると、冬には、入り口から内側に吹き込む風の流れを、夏には、外側に冷気を流すという流れを作り出してしまうこととなり、省エネという観点から不都合となる。また、特に、ビル内部において火災などが発生し、外部との温度差が大きくなった場合は、ビル全体が煙突のような役目を果たすことになり、下方から燃焼に必要な空気が上昇気流となり供給される構造となってまことに都合が悪い。

一方、通常の横開きの自動ドアを二つ使って、空気の流れを遮断する方法もあるわけだが、特に出入りの激しいビルでは、両方のドアが開いているオーバーラップが長くなるため、回転扉のように、常に空気の流れを遮断できる出入り口が本来好ましいわけである。

回転扉の安全性

さて、今回の件で回転扉一般が危険であると思われがちであるが、よくよく調べてみると、市販されている回転扉のほとんどには、「メカニカルな緩衝装置」がついていることが通例のようである。中心の回転軸に三枚扉がついている様なタイプのものであれば、以下のように扉自身に過度の力がかかると、回転軸と扉を固定している部分が解除され力を逃がすような構造になっているわけである。

ところが、今回事故を起こしたシノレスは、重量の軽い一枚扉が回転軸の周りに配置されるのではなく、安定した三角構造を量端に持つ一体化した構造が全体として回転する構造であったために、従来型のメカニカルな衝撃緩衝機構が採用できなかったとも言われている。しかも、重量の大きな部分が両側に存在することにより回転モーメントもより大きなドアである。

ただ、このような構造であったとしても、回転する端の部分にメカニカルなクッションを設置し、そのクッションが押されたらストッパーが飛び出るような構成には出来たはずである。

例  押し出し式ストッパー

よって、この回転扉の設計者は、設計段階からセンサーにより障害物を認識した上でメカニカルストッパーに頼らずに安全を確保する設計思想を持っていたものと思われる。つまり、各種センサーのシビアさは設計の前提であったにもかかわらず現場のメンテナンス部門が、シビアさを緩和する調整を行ってしまった、盲点の存在を許してしまったことが事故の原因と考えられる。

メカニカルな安全装置

ただ、一つ残る疑問は、安全装置に関しては動作が確実なメカニカルなものを採用することは設計上の基本と考えられるのに、なぜセンサーに頼る設計を行ったかだ。このタイプの回転扉は、中央部を開くことにより車いすなども通行しやすい。バリアフリーなニーズを目指した製品が事故の原因となるのは何とも皮肉な話である。

 

追記

米国の「Horton doors」のサイトに、類似した設計の回転ドアの図面が存在した。

http://www.hortondoors.com/Products/Revolver/9308d.html

http://www.hortondoors.com/specs/9620.html

引用では多少見にくいが、赤く示した部分を見ると、一枚ドアの両端に遮蔽構造を持つ基本設計は同一であるが、回転する部分のリーディングエッジが可動式になっていることが見て取れる。図面のEに相当する構造がそれである。このドアは、障害物に対して接近した場合停止するセンサー機構が入っているがその他にもこの可動部分がぶつかった際のクッション構造となり、安全性を高めていることが見て取れる。 これをみると、シノレスの「割り切りぶり」が際だつ。

ちなみに、Horton Doors は、三和シヤッターのグループ企業である。

http://www.sanwa-ss.co.jp/company/group_ov.html