踊るブロードバンド

つにい、NTTがメジャー作品のネット配信を開始するようだ。しかも、6Mbpsで。

ところで、ADSLプロバイダーのネットワークは簡単に書くと以下のような構成になっている。

家庭のADSLモデムは、電話局に設置されたDSLAM(局用集合モデム)に接続され、それがさらに、DSLプロバイダーのネットワークセンターに集約された上で各プロバイダーに接続されるのである。ここで、電話局とネットワークセンター、そして、ISPを接続するイナズマっぽく書かれたライン。これはもちろん誰かがただで引いてくれるわけではなく、NTTから専用線を借り受けて敷設するか、ダークファイバーや、自前のラインを引いているのだ。お金がかかっているのだ。さて、それでは幾らかかるのか。専用線も様々な業者が提供しているが、ためしに、NTT ATMメガリンク600Mbps料金表を見てみよう。

たとえば、都内にデータセンターを持ったとして、15Kmの専用線を借りると一ヶ月約600万円。

これを6Mbpsで送られる、2時間の映画のコストを時間とデータ通信料で按分すると 

600/30−>一日 20万。

200000/24 x2 −> 二時間分 16666円

さらに、それを百で割ると、6Mbps分。答えは、 約167円。

仮に、図に書いてあるように、この専用線を二本経由してデータを送ったら、それだけで、300円近くかかってしまう計算だ。

現実には、ISPの通信量の50%以上は、加入者の1%程度のひとにより占有されていると言われており、ブロードバンドな使い方をしない人々にコストを持ってもらう形で問題の顕在化を防いぐのであろうが、、xDSLやFTTHのプロバイダーにとって、この専用線負担はバカにならない。月々の利用料金のうち半分程度は、この経費で消えてしまうほどだ。さらに、メジャー映画だから、映画会社にお金も払わなければならないのにビジネスとして成り立つのだろうか。

囲い込みと二つの裏のねらい

もちろんNTTとしては、ビジネス上の採算を視野に入れながら開始の決断をしたのであろう。最も重要なねらいは、Yahoo BBから、ADSLのユーザーを奪い返すことだ。

上記の計算から推測できるように、ブロードバンドを提供するときに、背後の回線敷設に伴うコストはかなり重いものとなる。しかし、他方で、1995年頃から台頭してきたWDM(光多重)装置など、光ファイバーを使った通信装置の技術革新スピードはすさまじく、回線あたりの通信スピードは約8ヶ月で倍、つまり、8ヶ月たつと、以前のコストの半分になると言われている。局あたりにほんの少しのユーザーしか獲得できていないのであれば、その後、コストを下げる余地も限定されるのだが、極めて多くの顧客を獲得できていれば、ダークファイバーを借りて、DWDM装置を導入することにより、回線コストを格段に下げていくことが出来るのである。

さて、それでは、裏のねらいとは何か。

一つ目。今回、メジャー映画を提供するわけだが、当面、6Mbpsで見られるのは、フレッツADSLとのコンビ契約の顧客に限定される。これは、上記のような囲い込みの意味もあるのだが、もう一つのねらいは、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)上のキャッシュを有効に活用するためだ。

多くのユーザーが見たがるようなメジャーコンテンツに関しては、そのつど、エンドのユーザーにストリーミングで遠路はるばる流すのではなく、あらかじめ電話局または、それに近いデータセンターに、キャッシュしておくことにより、高価な専用線に負担をかけずに提供できる。もちろん、局のエッジにキャッシュ装置を置く必要があるため、ネット負荷の高い6Mbpsコンテンツに関しては、当面は装置配置の進んだフレッツ上にて行う必要があるのだ。

また、現段階で、ネット経由で6Mbpsのコンテンツを見るようなやつといったら、そうでもなければWinMXで、専用線にデータを流しまくるうっとおしいユーザーである。ちょうど、母親が幼児にビデオでも見せておくと、子供が夢中になって手がかからないように、ブロードバンドジャンキーは、きっと、6Mbpsのストリーム画像に夢中になって、よけいなトラヒックを発生させまいと思っているのである。

オシャカサマの手の上で

さて、真の裏のねらいとは何か。前回、ブロードバンドはパンドラの箱と書いた。しかし、当面NTTの読みとして、個人がブロードバンドでビデオオンデマンドをするとしても、フツーの人はせいぜい週に二本程度を見るぐらいと考えているのであろう。それであれば、6Mbpsのトラヒックが継続するのは、週に4時間。一週間の時間のうち 4/(24*7)=0.02 つまり2%程度。CDNも有効に動作すれば、ネットワークに過度の負荷を与えずに運用できると考えているだろう。しかし、ゴールデンタイムのような時間的集中も発生するだろう。また、蓄積型テレビで開花しつつある、見ないものまで撮るCoCoon的発想はネットでこそ有効ではないのか?継続的に見るかもしれない多量のコンテンツがネットの上を流れるかもしれない。あけられたパンドラの箱の帰結をNTTは制御できるのだろうか??

いや、それが大丈夫なのである。制御できなくてもへっちゃらなのさっ。

仮に、ブロードバンドが進展しちゃって、CDNもうまく動作しないような巨大トラヒックが発生するとき、何よりも必要とされるのは拠点間を結ぶ高速回線だ。上記ネットワーク図で、DSLプロバイダーやISPを含めて、高い金を出して、専用線を借りているのはNTTからがほとんどなのだから。さらに、DWDMで高速化するにしても、国内で、余分な光ファイバーを抱えて困っているのはNTT自身だ。

ちょうどi−modeブームの時、様々なコンテンツを提供する企業が注目されたものの、もっとも儲けたのは、パケット代を徴収するDoCoMo自身であったように、ブロードバンドだADSLだ、VoIPだと騒がれても、銅線も専用線も、ファイバーも、ほぼ独占しているのはNTT。どんなカオスが来たとしても、カネをとれる根幹の部分を握っていればとりっぱぐれることはない。まさに、マッチポンプだ。

実のところNTTにとっては、Yahoo BBの躍進も、身銭を削って、金を払ってくれる大口顧客の出現として映っているだけかもしれない。さらに、帯域を食う映像コンテンツで踊ってくれればと思っていることだろう。

そういうわけだから、わたしはしぶしぶと、意味のないネットワーク負荷をかけつつ、6Mbpsのコンテンツも見るつもりなのである。感謝してねNTT。